雷放電で拓く 高エネルギー大気物理学
身近な雷という現象から、予想もされていなかったガンマ線が検出されるようになった。これは雷のトリガーが何かという謎を解く新しい鍵であるだけでなく、火星や木星、原始惑星系円盤でも起きているであろう雷までスコープに入れれば、宇宙の強電場で起きる物理現象に新しい視点を与えている。私たちは、世界的にみても強力な日本海沿岸の雷雲を観測対象とし、冬季雷からの放射線の精密観測を行うことで、雷が光核反応を起こすことを世界に先駆けて観測的に発見した。雷は原子核現象を起こすのである。これまでは電波や可視光で観測されてきた雷を、私たちは市民サイエンスの視点も取り入れた多地点での放射線観測網で捉え直し、雷雲の中でおきる様々な高エネルギー大気現象を解明したい。いまパラダイム・シフトがおきつつある「雷放電と雷雲の高エネルギー大気物理学」という新しい学術分野を自分たちの手で作り上げる。
超小型衛星を活用した 多点観測手法の開拓
あらゆる分野において、科学プロジェクトの巨大化が起きている。この理研白眉研究チームに通底するマインドは “Collective Power of Science” である。これは、単一の超弩級戦艦を作るのではなく、1台1台はシンプルな性能をもつ装置を多数運用することで、1台の巨大装置ではできない科学観測を行うもので、雷雲の地上観測網もまさにそれだ。この発想を、宇宙にも展開したい!高い感度を実現するには大きな宇宙望遠鏡が必要であるが、最近の技術進展を活用して 6U CubeSat サイズの超小型衛星で宇宙X線観測を実現できる体制に挑戦したい。国際宇宙ステーションに2017年に搭載された大面積X線望遠鏡 Neutron star Interior Composition ExploreR (NICER) の望遠鏡と検出器技術をスピンオフすることで、シンプルな小型X線望遠鏡を実現し、衛星艦隊として運用することで観測ギャップを低減しつつ、広い天体強度に対応できる観測体制を目指す。これは大型衛星とは相補的で、教育と研究の両方を視野に入れたプロジェクトである。
多波長観測による 宇宙の極限物理への挑戦
これまでX線天文学で研究してきた、中性子星やその中でも最も磁場の強い天体「マグネター」で起きている強重力、高密度、強磁場、高速回転、強輻射場などの極限物理の現象の解明に、多波長観測や、新しい解析手法のアプローチを駆使して挑戦する。NICER が日々モニターしているブラックホールや中性子星のデータ解析はもちろんのこと、電波望遠鏡を使ったパルサー観測なども併用して、マグネター進化の解明や、宇宙論的な距離で起きる謎の電波バースト Fast Radio Burst (FRB)の解明、あるいは近傍の恒星フレアが系外惑星に与える影響をお隣さんの恒星系プロキシマ・ケンタウリの高エネルギーモニター観測などを通して挑戦する。また、超小型衛星では全天で最も明るいX線星「さそり座X-1」をモニターし、その準周期振動の観測から自転周期を長期推定することで、将来に重力波干渉計で期待されている定常重力波の発見に貢献する。